はじめに
企業が直面する課題やリスクの複雑化・高度化が加速している昨今、組織内のコンプライアンス強化などのリスク対策に加えて、外部要因から発生する予測困難なリスクに対しても特定し、対策を講じていくことが求められています。特にサードパーティ(委託先)のリスク管理については、テクノロジーの進化やグローバル化によるサプライチェーンの複雑化、国内外の規制の厳格化等の要因から企業が早急に対応を迫られている分野といえます。
本稿では、サードパーティ(委託先)リスク管理が重視される背景について解説した上で、企業が抱える課題に対するOneTrust サードパーティリスク管理 (TPRM)のソリューションについてご紹介します。
1. サードパーティ(委託先)リスク管理とは
サードパーティ(委託先)リスク管理とは、外部の第三者(サードパーティ)であるサプライヤー、パートナー、サービスプロバイダーなどに対象に、関連するリスクを特定・評価し対応・管理する一連のプロセスを指します。
サードパーティの契約前から契約後までのライフサイクルに合わせ、効率的で適切なプロセスを構築するかという点が重要と考えられています。
2. サードパーティ (委託先) リスク管理が求められる背景
企業がサードパーティ(委託先)で発生する可能性があるリスクを特定し、適切に管理することが求められるようになった背景には、主に次のような要因が挙げられます。
サプライチェーンのグローバル化と複雑化
企業の海外拠点への進出やデジタルトランスメーションの需要に対応するために業務の海外へのアウトソーシング、外部システムとの連携、およびクラウドの活用を積極的に進めていることにより、サプライチェーンのグローバル化および複雑化が益々加速しています。
それに伴い、企業が対応を求められるリスクについても多様化していることが、近年のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻のサプライチェーンへもたらした影響からもわかります。
グローバルサプライチェーンが影響を受け得る代表的なリスクの例として、以下が挙げられます。※経済産業省の白書より抜粋
- 自然災害やパンデミック等の環境リスク
- テロや紛争、政治的不安等の地政学的リスク
- 経済危機や原料の価格変動といった経済リスク
- サイバー攻撃やシステム障害などの技術的リスク
これらのリスクに加えて、海外の関連会社や取引先における粉飾決済や横領などの不正のリスクについても対策を講じることが求められています。特に複雑化したグローバルサプライチェーンの中においては、この後の「ESG関連リスク」でも触れていますが、複雑なレイヤーの存在により下層部で行われた不正等を把握することが困難であると考えられています。
国内外の規制・コンプライアンスの強化
国内外においてサードパーティリスク管理に関連した規制およびコンプライアンスの強化が進んでおり、企業はこれらの規制に対応することが求められています。ここではその一部の規制についてご紹介します。
経済安全保障推進法
経済安全保障法は2022年5月に成立した法律で、国家の経済分野のリスクを管理し特に重要なインフラや産業を守ることを狙いとしています。
4つの制度を創設し、各制度ごとに段階的に施行されています。
4つの制度
① 重要物資の安定的な供給の確保に関する制度
② 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度
③ 先端的な重要技術の開発支援に関する制度
④ 特許出願の非公開に関する制度
サードパーティリスク管理の関連では、「②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度」の中で基幹的なインフラ事業を行う事業者(特定社会基盤事業者として指定された者)が特定の重要設備について、導入や重要な維持管理等の委託をしようとする際に、事前に国に届け出を行い、審査を受ける必要があることが規定されています。
また、主務大臣は届出内容を審査した上で、特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいと認めるときは、計画書の内容の変更その他の必要な措置、または当該導入もしくは委託の中止を勧告することができます。
EU デジタルオペレーションレジリエンス法 (DORA)
EU (欧州連合)で2023年に発効されたデジタルオペレーションレジリエンス法 (通称:DORA)では、金融業界のICTリスク管理の強化を目的に制定された法律です。
特徴的な点として、DORAの対象は銀行、投資会社などの従来の金融機関に加え、ICTシステムやサービスを提供しているプロバイダーも対象となることを規定しています。
DORAの要件
① ICTリスク管理
② インシデント報告
③ デジタル・オペレーショナル・レジリエンステスト
④ サードパーティリスク管理
⑤ サイバー脅威インテリジェンスの情報共有
要件の「④ サードパーティリスク管理」のポイントとしては、下記があげられます。
- 金融機関は ICT サードパーティ サービス プロバイダーへの依存を強めており、契約交渉やリスク監視において課題が生じている。
- 現行法では、重要なサードパーティプロバイダーによるシステムリスクを管理するには不十分である。
- サードパーティの依存関係を監視するには、より堅牢な監視フレームワークが必要である。
EUでは、同じく金融業界に向けて2021年にバーゼル銀行監督委員会が「オペレーショナル・レジリエンスのための諸原則」が公表されています。
これらの制度や法律について、弊社TrustNowのブログで詳しく解説していますので、こちらもご参照ください。
金融セクターで重要視される「オペレーショナル・レジリエンス」
経済安全保障推進法とサードパーティ・リスク管理
サイバーセキュリティリスクの増大
サードパーティが企業のデータやシステムにアクセスする場合、その管理や保護の方法によっては、サイバー攻撃のリスクが増大します。特に、クラウドサービスや外部のITインフラを利用している場合、サードパーティによるセキュリティの欠陥や不正アクセスが企業全体のリスクとなり得ます。
2023年12月に発表されたMIT Professor Stuart E. Madrickのレポートの中で、新たなサイバーセキュリティのリスクとして ①クラウド環境の構成ミス ② 新しいタイプのランサムウェアの出現、そして ③ ベンダーシステムの悪用の増加(サプライチェーンブリーチ)の3つをあげています。
③のベンダーシステムの悪用の増加というポイントについては、実際に国内においてもIPA(情報処理推進機構)が2024年行った調査結果で、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が2位としてあげられいることから、企業は取引のあるサードパーティと協力し適切に対処することが不可欠であることがうかがえます。
これらの動向を背景に主要経済国ではEUを中心に、上記でご紹介したEUデジタルオペレーションレジリエンス法 (DORA)を始め、サイバーレジリエンス法 (CRA)、重要事業体のレジリエンスに関する指令 (CER) など次々ににサイバーセキュリティ規則や指令が発効されています。ここでは、2023年1月に発効され今年の10月までにEU加盟国は国内法の整備を整備することが求められているネットワークおよび情報システムに関する指令 (NIS2指令)の概要をご紹介します。
ネットワークおよび情報システムに関する指令 (NIS2)指令概要
EUでは、2023年にEU全体のサイバーセキュリティ強化を目的とした指令、NIS2指令が発効されました。本規制は、2016年に発効されたNISを基盤としながら厳格な内容に改正されています。2024年10月17日よりEU域内の国は、NIS2を国内法に適用しサイバーセキュリティ法の施行を開始することが求められています。
NIS2指令の改正のポイントとしては、主に次のことがあげられます。
- 適用対象事業体の拡大
- 罰則の強化
- インシデント発生時の早期通知
- セキュリティ要件の強化
上記の「セキュリティ要件の強化」の中には、サードパーティセキュリティの強化の確保について規定されています。
適用対象となる組織・企業は、サードパーティの管理と監視を強化するため、、現行のサードバーティとの技術的要件やセキュリティ要件に関する契約条項の見直し、サプライチェーンセキュリティポリシーの策定、ベンダーリスク評価の実施、そして定期的なモニタリングなど多岐にわたり対応が求められることになります。
NIS2指令については、同じく弊社のブログで適用対象および罰則の詳細について解説していますので、こちらもご参照ください。
EUのサイバーセキュリティに関する法律:NIS2指令について
ESG関連リスクへの対応
ESGは、環境 (Environment)、社会 (Social)、ガバナンス(Governance)をあらわし、ここ数年で企業が取り組むべき課題であるとの認識が広がっています。ESGの要素を考慮したESG投資についても欧米を中心に市場規模が拡大し、国内外の投資家は企業がESG投資を重視した経営を行っているかという点を重要視しています。
これについては、企業は自社のみならず、サプライチェーン内のESGの課題に対して適切な対策をとっているかという点も評価されるということも含まれています。
ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG) のレポートによると、サプライチェーン内に起因したESG関連のリスクとして、企業はこれまでレピュテーションリスク(評判リスク)を中心に対策を講じてきていましたが、昨今ではサプライチェーン内で働く人々の「人権」に関連する課題を重要視する傾向にあると報告しています。(レピュテーションリスクについても人権リスクと相関関係にあることを補足しておきます)
背景として、欧米諸国を中心にサプライチェーンに関わる人々を保護するためより厳格な法律や規定を制定しているまた制定を急速に進めていることが挙げられます。実際に、2024年EUではコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)が発効されました。本指令では、サプライチェーン内の人権及び環境のデューデリジェンスの実施や開示等を義務付けています。
BCGによると、人権関連の課題およびサプライチェーン内で発生するESG課題は、通常サプライチェーンの下位層のサプライヤーと下請け業者に関連するケースが多く、特に労働者に関わる問題については構造的に把握することが難しい状況にあると指摘しています。
そのため、企業に求められる対策としてはサプライチェーン内の透明性の確保が不可欠と考えられます。また、各階層のプロセスを適切に理解し、サプライチェーン内のリスク特定ための評価を実施することも重要なポイントとなります。
3. サードパーティ(委託先) リスク管理の課題
サードパーティーリスク管理(Third-Party Risk Management, TPRM)は、企業が外部のパートナーやベンダーと取引を行う際に、その相手方に起因するリスクを効果的に特定、評価、管理するためのプロセスですが、実際に運用するとなると企業はいくつかの重要な課題に直面します。

リスクの可視化と把握の難しさ
サードパーティーが複雑化している場合、その全体像を把握するのが難しくなることがあります。企業が直接契約していないサードパーティー(サブベンダーや下請け業者)によるリスクも存在し、これらを追跡するのは困難です。
リスク評価が一貫性に欠ける
サードパーティーリスクを評価するための基準やプロセスが不十分であると、リスクの評価が一貫性に欠ける可能性があります。
情報共有と透明性の欠如
サードパーティーとの間で、リスクに関する情報を十分に共有しない場合、問題が発生した際に迅速に対応することが難しくなります。特に、リスクに関する情報やインシデントの報告が遅れたり、不完全であったりすると、リスクの拡大を招くことがあります。
また、サードパーティーによるリスクの影響を予測するために、適切な情報を事前に収集することが重要ですが、企業とサードパーティー間での情報の非対称性がリスクを高めます。
4. OneTrust サードパーティリスク管理 (TPRM)
OneTrust のサードパーティリスク管理 (TPRM) は、ベンダーのオンボーディングからオフボーディングまでのサードパーティのリスク管理ライフサイクルを合理化し、リスクベースのアプローチが可能です。
4.1 特長
複雑なワークフローや自動化が可能
OneTrust のサードパーティリスク管理 (TPRM) の特長的な機能として、新規ベンダーの登録から既存ベンダーの登録解除、さらに契約中のベンダーの定期的なモニタリングなどお客様の業務フローにあわせ複雑なワークフローの設定や自動化ルールの設定することができます。
業務にあわせた複雑なワークフローの設定が可能

新規ベンダーの登録フローでは、OneTrustが用意しているオンボーディングのワークフローを元に業務にあわせた複雑なワークフローを作成することが可能です。上のフロー図の例でいうと、 申請者が新規ベンダー申請を起票後、複数の外部システムとの連携やスコアリングにより自動的にリスクを特定・検出する段階をフローに追加しています。さらに、検出されたリスクレベルに応じて、調達部門やコンプライアンス部門など該当部署へリスク評価依頼を送信する段階をフローに組み込むことも可能です。
外部システム連携やスコアリングの例としては、下記があげられます。
外部システム連携の例
・ダウジョーンズ
・帝国評点
・D&B Rating
スコアリングの例
・制裁国リスト
・国の汚職指数
・PEP (重要な公的地位を有する のもの)
OneTrust サードパーティリスク管理 (TPRM)
ワークフローの設定画面




例:リスク評価を追加

自動化ルールによるアラーム設定が可能

契約中のベンダーの定期的なモニタリングを効率化するために、自動化ルールを設定し、指定した頻度でベンダーを対象に評価を送信することが可能です。
また、上のフロー図のように自動化ルールにより社内スコアリングまたは外部システムとの連携などから得られる情報からリスクを検出し、該当部門へベンダーリスク評価依頼を送信することが可能です。
OneTrust サードパーティリスク管理 (TPRM)
自動化ルールの設定画面



4.2 サードパーティ・リスク管理 機能紹介
複数のベンダーを一元管理可能

複数のベンダーの取引状況、ベンダーが提供する製品やサービスの内容などの一般情報からベンダーに関連づけられているリスクレベルなどの情報をインベントリ(台帳)機能により一元管理することが可能です。
管理項目を自由に追加設定が可能

属性を追加、編集、アクティブ化、または非アクティブ化することで管理項目を自由に設定することができます。
効果的なリスクの管理が可能

情報リスクやコンプライアンスリスク可視化し、
効果的にリスクを管理することができます。
エンゲージメント

ベンダーにより提供される特定のアクティビティや
サービスに割り当てられたリソースや時間を
記録することができます。
サードパーティ
リスクエクスチェンジ

ベンダーに問題が発生した場合、セキュリティ スコアカード、RiskRecon などのデータ ソースから必要な情報を取得して、新しいリスクの発生に際して、アクションをトリガーする条件分岐のワークフローを構築することが可能です。
他ベンダーやITアセットと関連付け
有機的な把握が可能


インベントリーの記録を他ベンダーやITアセットと関連づけ、データグラフで視覚化することができます。
4.3 OneTrust製品に 共通するその他の機能
サードパーティ・リスク管理(TPRM)を含めたOneTrust製品 に共通するその他の機能についてご紹介します。
複雑な権限設定が可能


様々な役割 (ロール)による操作・表示内容など複雑な権限設定が可能です。
役割(ロール)別の操作・表示内容の権限設定の例
- 申請者:セルフサービスポータルから新規ベンダー登録申請等の業務フローが開始可能。開始された業務フローにて送出された質問票に回答可能。
- 部門管理者:申請者の権限に加え、申請者が回答した質問票の修正・承認が可能。
- 外部招待ユーザー:他のユーザによって送出された質問票のみ回答可能。
- システム管理者:アプリケーションのほとんどの機能にアクセス可能。
セルフサービスポータル

セルフサービスポータルをOneTrustユーザーが利用する最大のメリットは、OneTrustのデフォルトの複雑な画面を行き来することなく、自身に関係のあるタスクに集中できることです。
この機能は特にベンダー評価自動化などのアセスメントを実施する際に非常に役立ちます。
多言語対応が可能




OneTrustでは主に下記の項目について多言語対応が可能です。
- システムメニュー
- 質問票
- 通知メール
- カスタマイズ(追加・変更)した独自の属性
ダッシュボードやレポート機能で
一元的な可視化、把握が可能

外部システムとの連携が可能

さいごに
サードパーティ・リスク管理をサポートするOneTrustソリューションには、サードパーティのリスク管理に必要な機能がすべて提供されており、サードパーティのガバナンスを担保するための仕組みがあらかじめ用意されています。
ご興味のある方は、ぜひ弊社までご相談ください。

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