CSRD ダブルマテリアリティの原則
本ブログでは、2024年1月より適用開始した企業サステナビリティ報告指令(CSRD: Corporate Sustainability Reporting Directive)について、要件や原則などピックアップしてご紹介します。
はじめに
前回のブログ CSRD(企業サステナビリティ報告指令)概要で簡単に触れましたが、CSRDでは「ダブルマテリアリティの原則」に基づいてサステナビリティ事項を報告しなければならないと定められています。CSRD規制以前のNFRD (非財務情報開示指令) では曖昧に定義されていた部分が、CSRDでは明確に定義されています。
そもそもマテリアリティとは何を意味するのか、さらにダブルマテリアリティの原則とはどのように定義されているのかここでは解説したいと思います。
マテリアリティとは
経済産業省の資料では、マテリアリティとは「重要性」を意味し、企業を取り巻く課題の中から優先度を判断し重要課題を特定するための尺度と定義しています。下記図では、マテリアリティと重要課題(マテリアリティ・イシュー)の関係性を表しています。
また、マテリアリティにはサステナビリティ事項が及ぼす企業の財務的影響を評価する財務的マテリアリティと企業がサステナビリティ事項に関連する人や環境へ及ぼす影響を評価するインパクトマテリアリティがあり、国や地域の規制や採用するフレームワークによっていずれかのマテリアリティのアプローチ(シングルマテリアリティ)または、2つのマテリアリティ(ダブルマテリアリティ)のアプローチを採用し分析を行うことが求められます。
CSRD/ESRS のダブルマテリアリティの原則とは
CSRDの報告基準であるESRS においては、企業はダブルマテリアリティの原則に基づいてサステナビリティ事項を報告しなければならないと規定されています。
3. Double materiality as the basis for sustainability disclosures
25. The undertaking shall report on sustainability matters based on the double materiality principles as defined and explained in this chapter.
EFRAG ESRS1 General Requirements:
https://www.efrag.org/Assets/Download?assetUrl=%2Fsites%2Fwebpublishing%2FSiteAssets%2F06%2520Draft%2520ESRS%25201%2520General%2520requirements%2520November%25202022.pdf
出所:TrustNow作成
インパクトマテリアリティ:企業が及ぼすサステナビリティ事項に関連する人や環境へのインパクトを指標とする
- 短期、中期、長期とそれぞれの時間軸に対するインパクト
- 人や環境に及ぼすポジティブ、ネガティブなインパクト
- 企業または企業の取引関係※に関連する業務、製品(商品)、サービスが及ぼすインパクト
※ここでは、直接の雇用契約に限定されず、企業が関わるバリューチェーンが対象となる
財務的マテリアリティ:サステナビリティ事項が及ぼす企業のリスクと機会への影響を指標とする
- 企業のキャッシュフロー、開発、パフォーマンス、地位、資本コスト、資金調達に関連するリスクや機会へ及ぼす影響
- 短期、中期、長期とそれぞれの時間軸に対するリスクまたは機会へ及ぼす影響または合理的に予測される影響
- 財務諸表上の連結ベースの関連企業のみならず、連結の範囲を超えた他の企業やステークホルダーに起因するリスクや機会に関する情報も含む
企業はこれらの2つの視点からマテリアル評価を行い(ダブルマテリアリティ評価)、何が組織にとってマテリアリティなトピックにあたるのか(マテリアル事項)決定し、開示に備えることが求められています。
補足情報:ESRSの開示基準とマテリアリティ評価
ESRSでは2つの横断的基準(ESRS1・ESRS2)と環境・社会・ガバナンスにフォーカスした10のトピック別基準を設定しており、この開示基準に基いて報告書を作成する必要があります。下記の図は、ESRSの基準の概要を表したものです。
(出所:JETRO CSRD 適用対象日系企業のための ESRS 適用実務ガイダンス P.12 より抜粋)
マテリアリティ評価については、上記の図にあるESRS1 全般的開示要求事項の中にある適用要件の中でその評価ステップについて定められています。
さらに、ESRS2 全般的開示事項においては、その評価プロセスと結果についての開示が義務付けされています。
したがって、CSRD適用企業はESRS1で定められている評価ステップに沿ってマテリアリティ評価を実施し、ESRS2の要件に従ってマテリアリティ評価のプロセスと結果を報告することが必要となります。重要なことは、マテリアリティ評価を実施する際は、前項でご紹介した「ダブルマテリアリティの原則」が適用されてくるということです。
ご参考までに、ESRSを作成した欧州財務報告諮問グループ (EFRAG: European Financial Report Advisory Group※) では、ESRSの導入にあたりESRS実装ガイダンスを公開しています。そのうち EFRAG IG Materiality Assessment では、マテリアリティ評価について解説されています。
※国際会計基準審議会(IASB)が策定する国際財務報告基準(IFRS)に欧州の見解を導入するため、欧州委員会支援のもと2001年に設立された組織
おわりに
EU域外の企業においても要件を満たす場合は、2028年会計年度よりCSRDが適用されサステナビリティ報告書を作成し、第三者保証を受ける必要があります。適用対象となる企業はESRSを導入・実装する体制を立ち上げ、サステナビリティ報告書の開示に備える必要があります。その前段階として、企業担当者はESRSについての理解を深めることが不可欠であると考えられます。
次回のブログでは、上記でご紹介したEFRAGが公開しているESRS実装ガイダンスを参考に、マテリアリティ評価実施時のポイントについて解説したいと思います。